手でふれて楽しむアート
若い頃、夢の一つに"目が不自由な子どもが楽しめる絵本を作りたい"という想いがありました。
そのきっかけは、ボランティアの方々が開いた、「手で触れる絵本展」に足を運んだことが始まりです。
当時、絵本作家になりたいという夢をもっていたので、へぇ何か変わっている展示会だなと興味半分で行きました。
展示会に展示されている絵本は、ボランティアの方が布で手作りしたものでした。
一冊作るのに相当手間がかかったはずです。
作られた方の努力と情熱には頭が下がります。
たしかに、目が不自由な人は楽しめるでしょう。
人は年を重ねると忘れがちになりますが、触感はけっこう楽しい感覚です。
小さい時は、砂場での砂遊びや泥団子作り。
大人になって、料理を作ったり陶芸で粘土をさわった経験がある人は、共感できるでしょう。
でも、布で作った絵本を楽しめるのは、その本を手に取ることができた一部の人だけです。
また、目が不自由でない人には視覚的な魅力は乏しいように感じました。
目が不自由でない人も目が不自由な人も楽しめる絵本がもし書店に並んでいたら、どんなに素敵でしょう。
その頃は、現在のようにネットで情報を手に入れることができなかったので、頭で妄想するだけの夢でした。
数年後、東京の渋谷にあるギャラリーTOMhttps://www.gallerytom.co.jpという美術館に行きました。
視覚障害者が彫刻にさわって鑑賞できる場所として、村山亜土(故)・治江によって1984年に創設された私立の小さな美術館です。
アート作品は、ながめるものという固定観念があったので衝撃的でした。
そして、アートは目が不自由でも楽しめる、と改めて感じました。
アトリエぱれっとを開いてから、いくつか実験的にさわれるアート作品の課題を考えました。
一つ目は、「木工ボンドの絵」。
見るだけでも楽しめますが、それぞれの素材のまわりに木工ボンドを塗っているので、目を閉じて指の触感でも楽しめます。
Y.Oさん 小学4年生
二つ目は、「もこもこペーパー」。
「ふくらむアート 」という紙に水を塗ると、5mmほどにふくらんで立体化されます。
とても魅力的な商品ですが、けっこう高い金額設定だったのであまり流通されなかったようです。
H.Tくん 小学5年生
現在は3Dプリンターも一般化され、さわれる絵本の作成は可能だと思います。
ただし、制作には費用がかかるため、出版社は採算が合わないので作ることはないでしょう。
昔から広く読まれている代表的な絵本や図鑑など限定されたジャンルだけでもかまいません。
国が助成金を出して、もしさわれる絵本が書店で普通の値段で売られていたら、素晴らしいと思うのですが。
その際には、一般の人でも手に取りたくなるように、カラーで印刷された絵本が希望です。
それぞれの色を点字で分かるようにすれば、色も頭の中で楽しめるかもしれません。
私自身、絵本の原作や童話の仕事はしましたが、残念ながら絵本作家は夢の途中です。
"目が不自由な子どもが楽しめる絵本"が、いつかできるといいなと本気で思っています。
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